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執筆者の写真Hayashi Yoichi

主観と客観との対応について:今年度の卒論紹介その2

※ この記事は,旧ブログ(2023年3月31日閉鎖)に掲載していたものです。



気がつけば,もう3月に入っていました。

授業期間が終わって時間がありそうですが,やはり年度末だけにもろもろの会議などで休みらしい日々は過ごせていません。

さて,前回に引き続き,本年度の僕が担当したゼミ生の卒論内容をご紹介したいと思います。

「アーチェリー上級者における内省感覚が初級者のフォロースルー技術改善に及ぼす影響」というタイトルの卒論です。アーチェリー上級者が行射(矢を放つこと)する際に感じている身体感覚(内省感覚),つまり「肘を現在の位置から○cm上げる」などという具体的な指示では無く,「肩と肘の中間部分が外側に引かれる感じで」などのように感覚的なイメージを初級者に教示して弓を放った場合に,実際のパフォーマンスが変化するかを検討したものです。

結果としては,初級者に上級者の感覚的なイメージを伝えても,動作を発現している骨格筋の活動に有意な変化は生じていませんでしたし,実際に行射して的に刺さった矢の得点も際はありませんでした。ただ,的に刺さった矢の集合の程度(矢が刺さった点を結んだ図形の面積を計算)は,教示を受けた場合に小さくなっていました。今回は映像を用いた動作分析自体を行っていないため,動き自体が変化しなかったのかどうかは不明です。しかし,骨格筋活動には有意な変化が生じていなかったにも関わらず,より小さい面積に矢が集中して刺さるようになったことは,アーチェリーのパフォーマンスを考えると,悪くない結果かな,と考えています。

僕の博士論文のテーマでもある,「身体感覚と生理的状態の対応」という課題にも共通するのですが,本人が思うとおりの動きを「行っているつもり」であっても,実際の動きは全然思うような状態になっていなかったり,動作ができていなかったりすることは意外とよくあります。このような感覚と身体状体の差異は,スポーツ場面でのパフォーマンス低下や日常生活における不都合を生じ,酷い場合には種々の障害に繋がる場合もあります。

実際に「発揮されている相対的な力(最大の何%にあたるか)」と出力に際しての主観的な努力度との関係はベキ関数関係であるという報告が見られる一方で,出力の高まりに比例して主観的な努力度はS字状の関係(低強度と高強度では客観的な強度の変化が主観的に関知しにくい)を示すという報告もあり,少なくともヒトの出力における主観と客観の関係については現在も不明瞭な部分が多いです。

現在,このテーマに関係した論文を執筆中なので,この論文が上手くどこかの学会誌にアクセプトされた暁には,このブログでも内容を紹介させて頂きたいと思います。

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