例年,他大学の皆さんとの合同ゼミ合宿で実施していた「集中論文執筆」ですが,今年度は多摩キャンパスで通いで実施し、丸二日間の集中論文執筆の作業が無事に終了しました。
今年度は,ゼミ合宿が中止になったために別途日程を設定して実施しましたが、僕の指導する院生4名に加え,新潟大学の村山先生の研究室から2名がオンラインで参加してくれました。
二日間猛暑でしたが,学内の木陰は少し涼しく,校舎内は快適で良い活動ができたと思います。
院生達が集中してディスカッションし文章を作成する試みは,それぞれの研究活動において有益な面があると感じています。
まずは,方法と結果の部分は事前に参加者で共有した上で集合し,初日は一日かけて緒言と考察それぞれのアウトラインを各担当グループで執筆しました。
アウトラインは先々の論文におけるパラグラフに対応させて考えていきますが,それぞれにどのようなトピックを含めるのか,読者の理解を容易するには示す順番はどうしたらよいかなどを考えながら,かなりの時間を要して執筆していました。
二日目は,初日に続いて午前中に緒言と考察それぞれのグループがアウトラインから本文を書き上げ,午後は,それぞれの内容を読み上げながら説明し,全体を通じて論旨のブレを修正しました。
この午後の作業が,実はこの合宿における活動の肝になると個人的には思っているのですが,今回は昨年度までよりも非常にうまく進められたのではないかと評価しています。
ただ,期間中に「書くこと」だけに集中するためには、実施に際しての準備が一番時間がかかります。
主たる準備事項としては,
1)研究計画・実験計画の策定
2)倫理委員会での承認
3)データ収集
4)データ分析
5)図表のドラフトの作成
6)緒言や考察で引用するための
先行研究の選定
7)先行研究を含めた研究の背景の理解
などが挙げられます。
それぞれで留意点はありますが,それを説明するには多くの文章を要することになるので,とりあえず項目の紹介だけに留めますが,実際にこれまでに数回行ってみて,今年度ようやくイメージに近い活動ができたように感じています。
時間がかかったのは僕の指導力不足が大きいのですが,論文執筆過程は人それぞれ手順や作業が異なるので,複数で行うこう言った活動を個々人の論文執筆活動に還元していくには,そこでまた留意が必要になるかもしれません。
また、執筆後に学会誌に投稿するのであれば、共同研究者としての資格を満たす必要がありますので、参加するメンバーには、かなり前から準備や相談などを進めておく必要もあります。
もちろん、研究遂行上のどの作業にどの程度コミットメントするのかは、研究ごとに変わりますので、毎年流動的になっています。
今回は、僕のゼミの博士課程の院生が主となって取りまとめてくれましたが、期間中に文献を探して追加したり、図表の解釈を再検討したりと新たな作業も行っていました。
この論文を書く作業において僕が一番大事にしているのは、一つ一つの文章の一義性を高めることと、読んでいる人が「なるほど。確かにそうだ。」と思える論理を示すことです。
読者(査読者も含まれますね)に、
「自分と意見は違うけど、論に破綻や矛盾がないので、この結果からそう考えるのは妥当である」
と思ってもらえる考察を書くのって結構難しいですよね。
卒論や修論だと、
「その結果からは、そんな解釈はできないよね」
とか
「今回の結果から,その考察に至るには論に飛躍があるよね」
という感想を持つ論文はよく見かけます。
今回の論文執筆合宿では、複数人で(複数の視点で)一つの文章をじっくり吟味する時間を取りました。
そのため,でき上がった原稿において,表現を含めて論に飛躍があったり、説明が不足したりする説明や考察は少なかったと感じています。
これは,一文一文について,読む側に誤解を生じさせたり,同じ文から複数の意味を想定したりできないように,各グループがじっくりと内容や表現を詰めることが例年よりも上手く出来た結果であると解釈しています。
時間をかければ良いという訳ではないのですが,おそらく,全体的な進め方がうまく行った事が理由でしょう。
あとは、学年が下だったり、所属が違うとどうしても発言しにくい雰囲気になりがちですが、積極的に修士1年生も発言していました。
僕を含めて、学会などで疑問があっても、
「発言が見当違いなことだったらどうしよう」
とか、
「こんな些細なことを質問したら申し訳ないな」
とか、そもそも
「大勢の前で発言するのは恥ずかしい」
などと思う人は多いでしょう。
でも、顔見知りのメンバーでこじんまりと作業することで、自分の意見を発言することに慣れ、実は「変なことを言っても,実際には他の人はあまり気にしていない」ということを理解することが容易になると思います。
今回、そういう面でも基本的には対面で実施できたことの意義は大きかったと感じています。
ただ、例年,合宿形式で夜中まで作業をしていたので,対面で実施したとはいえ、通いで行った今回の作業では、院生間の親密さはさほど深まらなかったかもしれません。
しかし,昨年度の全面オンラインでの活動と比較すれば,基本対面で一部オンラインを併用したハイフレックスで実施したことで,少なくとも対面で話をしていた院生同士は充実したディスカッションができたと思います。
来年度も、準備や研究の質を上げながら対面で継続していけたらいいですね。
今回の論文が投稿して無事にアクセプトされるるかどうは解りませんが,まずは参加してくれた院生達が,それぞれの修論や博論,投稿論文の執筆に際して,なんとなくでも留意すべきポイントを自分なりに感じてくれたら,頑張った甲斐もあるかな,と思います。
我々の研究室は,院生数や研究予算などは小さな規模で運営せざるを得ない状況です。
ただ,それでも教員が指導できることや院生・学生が行える行動をマキシマイズしていけるよう,今後も工夫しながら活動して行きたいと考えています。
今年度は,僕だけ大学近くの駅前に宿泊して毎晩寂しく飲んでいましたが,来年は夜も院生間の交流ができたら,と切に願っています。
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なお,今回の論文執筆合宿での活動は、大学院時代の後輩である笹井先生(東京都健康長寿医療センター)から紹介して頂いた「Paper-in a Day Approach」を参考に実施しています。
Paper-in a Day Approach
我々はこのアプローチそのままを行っている訳ではありませんが,色々と参考になるのではないかと思います。
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