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執筆者の写真Hayashi Yoichi

「こだわり」と「割り切り」。

更新日:6月14日

おおよそ30年ほど前,修士課程に入学してすぐの頃,研究室の博士課程の先輩達が,投稿論文の結果について話をしていました。

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A先輩:「論文,またリジェクトだったよ」

B先輩:「僕なんかもう今年に入ってもう2本リジェクトされましたよ」

A先輩:「俺はこれで今年に入って3本目だよ」

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修士課程に入学したばかりとはいえ,論文が査読を経て雑誌に掲載されることは理解していたので,

「この人たちは,なぜダメだった(掲載に至らなかった)論文の本数を競っているのだろうか? おかしな研究室に入ってしまったかも…」

と,話を聞いていてちょっと不安になりました(笑)。

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その後,自分が論文を投稿するようになってこの状況を思いだしたとき,先輩達の論文投稿のアクティビティが,大学院生としては凄い状況だったということに気がつきました。

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「3本の論文がリジェクトされた」と言われたら,「ダメだった」ことが強調されがちで,良くない状態だと評価されることが多いでしょう。

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一方で,3本の論文がリジェクトされたということは,「少なくとも3本の論文は投稿している」ということになる訳ですが,博士後期課程の1年目でこの本数を投稿しているということは,我々の分野ではかなり高いアクティビティだと言えると思います。

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最終的に,この先輩方は,今の大学院生が聞いたらビックリするぐらいの原著論文を書いて修了されました。

博士課程終了時のあの業績数を見たら,多少のリジェクトよりもアクティビティが大事だと強く感じると思います。

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現在は大きな大学で研究・教育をされていて,そのアクティビティは今も変わりませんが,あの業績を持って修了しても,学位取得後に色々と苦労されていたことを考えると,今の博士課程の院生はやるべき事が本当に沢山あると思います。


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「魂は細部に宿る」という言葉通り,実験・調査をしたり,論文を書いたり,研究活動においては適当に済ませて良いところはありません。

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一方で,こだわり過ぎて何も前に進めない状況も,生産性が低くなり,良いことはあまりないでしょう。

研究をしていく上では,作業を「ナタで切っていく(区切っていく)」ように進めることも必要なことだと考えています。

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この「ナタで切る」という表現も院生時代に先輩から頂いた助言です。

先行研究をまとめる,データを分析する,論文の文章を考える,など作業が,「小刀や鑿で木に細かな彫刻を掘っていく」作業だとすると,「ナタで切る」のは,大きな木の幹をある程度の大きさの木片に区切っていくようなイメージになります。

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この表現は,「研究をある程度まで詰めることができ,進展の程度が少なくなってきたら,こだわりを捨ててバサっと仕事を区切って(論文を投稿し),切り替えてまた新しい仕事(研究)に取り組む」ということを表すのにすごく適していると思っています。

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こういったことを踏まえて,僕は大学院生に指導する際,

“Done is better than perfect”

“巧遅拙速”

という気持ちで作業を行うべきだよ,と伝えています。



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在籍年数に上限がある大学院生は,どうしても期限を区切って仕事(研究)をしていく必要があります。

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「細部まで突き詰めて研究をする」,「文章にこだわって論文を書く」ことはもちろん欠かすことはありませんが,在籍年限内に修士号や博士号を取得することも,博士課程の院生にとってはしっかりとクリアしていくべき要件でしょう。

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博士論文や修士論文を完成させることは,ある意味,有期のプロジェクトだと思っています。

自分で研究目的を設定し,それを達成するための研究計画を立て,実践して期限内にまとめていく。

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これが達成されることが博士号・修士号を取れる条件だとすると,「期限内にプロジェクトやり遂げる」ことは前提条件なのですが,個人的には,このような経験からの学びは,将来,どこで働くことになっても必ず武器になるものだと思っています。

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もちろん,雑誌の掲載に至らないレベルの論文を沢山書いて投稿しても学術的には意義が薄い訳で,細部にこだわって研究をし,表現にこだわって論文を書くことは欠かせません。

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しかし,「こだわり」と共に,ここまで詰めたのであれば問題はないと「見切り」をつける判断をうまくすることも,研究者としてはすごく大事なことかもしれません。

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そもそも,多くの場合,ある分野の研究は一本の論文が発表されてそれで終わることはありません。

そういったことを考えても,まずはある程度まで仕上げたら積極的に世に出す,というスタンスは重要ではないでしょうか。

これからも,院生には「こだわり」と「割り切り」を意識するよう指導していきたいと思います。

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と,色々と書きましたが,現在の自分は,授業とその準備・後処理,時間があれば会議が入り込んでくるような学内外の委員会や会議に埋もれてしまい,なかなか自分の研究活動の時間が取れません。

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自分が望めば色々と削減できることも多い気がしますが,色々なしがらみを考えると,簡単には辞められなさそうです。

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やりたくない仕事も「ナタで切って」切り離せてしまえたら良いのですが,業務なので致し方ないでしょうか…。


院生に指導するよりも,まずは自分が色々と「割り切り」をしていく必要がありそうです。

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